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【日本ペイント】東京大学、ダイキン工業と共同し、呼吸器感染症の感染リスク低減対策のための教育現場向け参考ガイドを策定

教育人財開発機構 編集部 2021.10.20

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【日本ペイント】東京大学、ダイキン工業と共同し、呼吸器感染症の感染リスク低減対策のための教育現場向け参考ガイドを策定
東京大学とダイキン工業、日本ペイントは、呼吸器感染症の感染リスク低減対策に対応する室内環境の整備方法に関して、具体的な対策案をまとめた参考ガイドを策定した。このガイドは、学校現場におけるフィールド実験やシミュレーション等の学術的検討を通して得られた成果に基づいており、教育施設の管理責任者向けの参考資料となる。
国立大学法人東京大学(総長:藤井輝夫、以下「東京大学」)とダイキン工業株式会社(本社:大阪府大阪市、代表取締役社長兼CEO:十河政則、以下「ダイキン工業」)、日本ペイントホールディングス株式会社(本社:東京都中央区、代表執行役共同社長:若月雄一郎、ウィー・シューキム、以下「日本ペイント」)は共同で、厚生労働省をはじめ、政府・行政機関などから発出された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの呼吸器感染症の感染リスク低減対策に対応する室内環境の整備方法に関して、学校などの教育施設の管理責任者向けの参考資料として、工学的実証に基づく具体的な対策案をまとめた参考ガイドを策定した。


●東京大学と企業が組織対組織で連携し、未来社会ビジョンを共有し、学術の発展と社会還元を進める産学協創
東京大学は、世界の公共性に奉仕する大学の使命を踏まえ、地球と人類社会の未来への貢献に向けた協創を効果的に推進するために、全学的組織として未来社会協創推進本部(FSI)を設置し、さまざまな活動を展開している。産学協創とは、FSIのガバナンスのもとで、東京大学とパートナー企業双方の経営層による合意形成の上、組織対組織で連携して未来社会ビジョンを共有し、その実現に向けてともに活動し、学術の一層の発展とその社会還元を推進する活動のことである。ダイキン工業とは2018年12月から「空気の価値化」に関する産学協創※1を進め、日本ペイントとは2020年5月から「革新的コーティング技術の創生」に関する産学協創※2を進めている。


●三者共同の産学協創による初めての成果
今回、東京大学とダイキン工業との産学協創において進めてきた空気感染・エアロゾル感染※3対策に関する研究成果と、東京大学と日本ペイントとの産学協創において進めてきた接触感染対策に関する研究成果を束ねることにより、三者共同で、将来を担う児童生徒や学生が日々を過ごす学校などの教育施設の室内環境整備への早期導入を見据えた具体的な対策案をまとめた参考ガイドを策定した。この成果は、感染対策という同一の目的を持つ2つの産学協創から発展して生まれた、三者共同の産学協創による初めての成果となる。


●厚生労働省をはじめ、政府・行政機関などから発出された感染リスク低減対策に対応して、工学的、実践的対策案を学術的に検討
昨年来の我が国における新型コロナウイルス感染症の流行により、社会は大きな行動変容を迫られた。厚生労働省をはじめとして、政府・行政機関は感染防止の基本的な対策として「マスクの着用」「手洗い」「3密(密接・密集・密閉)回避」の徹底を呼びかけるとともに、窓開け換気や機械換気による必要換気量の確保による空気感染・エアロゾル感染対策、マスクの着用や十分な対人距離の確保、衝立の使用などによる飛沫感染対策、手指消毒や不特定多数が高頻度で接触する部位であるドアノブや什器などの消毒・除菌による接触感染対策などを推奨している。本参考ガイドは、これらの中で室内環境の整備に関わる対策に関して、策定している。

オフィスや商業施設を中心に感染対策が進む中、学校などの教育施設においても感染対策の推進が課題となっている。しかしながら、学校などの教育施設では多くの児童生徒や学生がひとつの教室に長時間滞在するのが一般的で、十分な対人距離を保つことは困難である。また、教室を換気する際には窓を開けたり換気扇をつけたりして対応する場合が多く、特に夏期・冬期など、室内外の環境や湿度の差が大きい期間には、暑く湿った空気や冷たく乾いた空気の流入が増加することで、室内環境の快適性が損なわれ、学習効果の低下や在室者の体調不良につながることも懸念される。さらに、通常清掃をより丁寧に行う以上の対策として、児童生徒や学生が高頻度で接触する机や椅子、手すりや扉の取手などの定期的な消毒にも、膨大な時間と労力がかかり、実施が困難である。本参考ガイドは、産学協創の活動の一環として行われ、学校現場におけるフィールド実験やシミュレーション等の学術的検討を通して得られた成果に基づき、具体的な対策案をまとめたものである。


●換気による空気感染・エアロゾル感染リスク低減対策と抗ウイルス・抗菌コーティングによる接触感染リスク低減対策の2部構成
本参考ガイドは2部構成となっている。第1部は、空気感染・エアロゾル感染対策としての「教育現場における換気による空気感染・エアロゾル感染リスク低減対策の参考ガイド」であり、第2部は、接触感染対策としての「教育現場における抗ウイルス・抗菌コーティングによる接触感染リスク低減対策の参考ガイド」である。第1部は、この換気に関して実践的な対策方法を記載している。第2部は、人が高頻度で接触し、感染性の病原が広範囲に拡散する可能性を秘めるドアノブや扉表面や、感染性飛沫が長時間、残存する可能性のある壁や床等の抗ウイルス・抗菌コーティングに関して、実践的な対策方法を記載している。既存の教育施設でも比較的早期に導入可能な対策案を具体的に提示しており、空気感染・エアロゾル感染対策と接触感染リスク低減に対して、個別にも同時にも参考にしていただける構成となっている。この参考ガイドが広く実施されれば、より安全・安心かつ快適な教育環境の構築に資するものと考えている。


■呼吸器感染症の感染リスク低減対策のための教育現場向け参考ガイド
https://www.ducr.u-tokyo.ac.jp/ucr.html


■参考ガイドの概要
「第1部:教育現場における換気による空気感染・エアロゾル感染リスク低減対策の参考ガイド」の主な記載内容について

【1】厚生労働省は、基本的な感染対策として一人あたり毎時30平方メートル*の換気量を満たすことを推奨している。第1部では、40人の生徒が在室することを想定した約190平方メートルの教室における熱交換型換気機器を用いた換気量の実測調査、飛沫に包まれて浮遊するウイルスに見立てた粉塵に対する空気清浄機による除去効果の実測調査、気流と浮遊粉塵の挙動シミュレーションに基づき、教室内の温熱環境を適正に保ちながら必要換気量を確保するためのポイントや注意点を提案している。
*「平方メートル」の本来の表記は累乗です。
 
【2】換気量確保のための定期的な窓開け換気では、夏場の暑く湿った空気や冬場の冷たく乾いた空気の流入によって教室の快適性が損なわれ、教育効果が低下したり体調を崩したりする可能性が考えられる。室内の温度や湿度の変動を抑えながら換気できる熱交換型換気機器を使用することで、室内の温熱快適性の著しい低下を防ぐことができる。ただし、熱交換型換気機器に搭載された熱交換エレメントやフィルターは、長期間使用しホコリなどが蓄積し通気抵抗が上がると、換気量が低下することもあるため、定期的な清掃や交換が重要となる。

【3】フィルターによる濾過式で風量が毎分7平方メートルの空気清浄機1台を教室の後方に設置することで、約12人分の相当換気量※4が得られることも確認された。運転音が学習の妨げにならない範囲で、できるだけ風量の大きな空気清浄機を使うことが効果は高いといえる。また、熱交換型換気機器と同様、フィルターの定期的な清掃や交換が重要となる。なお、風向を人に向けた場合に風下の感染リスクが高まる可能性があることから、極力人に向けて風を当てないことが望ましいと考えられる。
 
[図1-A ]熱交換型換気機器と空気清浄機の配置
[図1-A]熱交換型換気機器と空気清浄機の配置
 
[図1-B ]気流シミュレーション(モデルと空気流線ベクトル)
[図1-B]気流シミュレーション(モデルと空気流線ベクトル)
 
[図2 ]空気清浄機の使用台数計算用フロー図
[図2]空気清浄機の使用台数計算用フロー図


「第2部:教育現場における抗ウイルス・抗菌コーティングによる接触感染リスク低減対策の参考ガイド」の主な記載内容について
接触感染リスクをできる限り低減するための1つの手段として、身の回りのモノへの消毒、手洗い、手指の消毒等の対策に加えて、壁や床、扉等への抗ウイルス・抗菌コーティングの抗ウイルス性・抗菌性の効果を検証し、その選定における考え方を提案している。

実際の教育現場において、接触機会が多い物質表面に、抗ウイルス・抗菌コーティングおよび比較となる一般コーティングを施工し、抗ウイルス・抗菌効果について、持続性や耐久性の観点から検証した。その結果、抗ウイルス・抗菌コーティングによる接触表面の抗ウイルス化・抗菌化効果を確認することができた。

また、教育現場で抗ウイルス・抗菌機能を有する塗料およびコーティングを選定する際に、製品を比較検討するために[図3]に示すような製品選定案内書を付属している。製品選定案内書は、製品性能としてのデータだけでなく、持続耐久性試験後の性能データ、およびその試験方法、さらには日々のメンテナンスや再塗装時期についても確認することができる。
 
[図3]製品選定案内書(付録B)
[図3]製品選定案内書(付録B)


※1:2018年12月17日に東京大学とダイキン工業とで交わされた「産学協創協定」に基づく。この産学協創協定は、年間10億円を目途とする予算規模で10年間の継続が予定されている。
→https://www.ducr.u-tokyo.ac.jp/content/400102955.pdf
この協定による東京大学における社会連携講座(https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/orgs-projects/d04_07.html)の設置は2021年8月1日現在で15講座となり、ダイキン工業より賄われる講座設置費用(契約ベース)は、総額43億8千万円である。ただし、上記、産学協創協定に基づかない過去の設置等は、算入していない。
→https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400030933.pdf

※2:2020年10月1日より、5年間の予定で設置される社会連携講座に基づく。日本ペイントホールディングスより賄われる講座設置費用(契約ベース)は、総額11億円である。
→https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400030933.pdf

※3:エアロゾル感染:感染者から放出される細菌やウイルスなどを含む飛沫の水分が蒸発して、小粒径の飛沫核となる過程に生じる比較的小粒径の浮遊微粒子を呼吸により吸入して生じる感染。

※4:空気清浄機の業界規格である日本電機工業会規格 JEM1467のP値から算出した相当換気量


★今回の発表および参考ガイドに関する一般的な質問と答えについては、下記PDFをご覧ください。
https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400171463.pdf