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〈注目の実務家教員インタビュー〉【第6回】名古屋産業大学・今永典秀准教授『座学と体験を往還する教育で、大学と社会の架け橋に』

教育人財開発機構 編集部 2021.04.30

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〈注目の実務家教員インタビュー〉【第6回】名古屋産業大学・今永典秀准教授『座学と体験を往還する教育で、大学と社会の架け橋に』
【プロフィール】

名古屋大学経済学部経済学科卒業。2005年、新卒で住友信託銀行株式会社(現:三井住友信託銀行株式会社)に入行し、法人営業などを経験。その後地元である名古屋にUターン転職し、2011年12月東和不動産株式会社に入社。名古屋駅前の開発やまちづくりなどの活動に携わる傍ら、2012年12月にボランティアによる市民活動団体「NAGOYA×FOREVER」を設立。2013年4月から2年間、MBAの大学院に通い、経営学修士を取得。2016年1月から2019年3月まで岐阜大学地域協学センター特任助教を務める。そして、2019年4月に名古屋産業大学現代ビジネス学部准教授に就任。2021年4月、企画構想段階から参画した「経営専門職学科」が開設された。東海地域の幅広い人脈とコーディネート力を活かした実践的な授業を展開中。学外の地域貢献活動にも積極的に取り組み、「NPO法人G-net 地域の社内起業家応援プロジェクト・スクール長」や「NPO法人たすけあい名古屋・理事」や「名古屋市共創コーディネーター事業・外部アドバイザー」などを兼任している。2021年3月岐阜大学博士(工学)。

[企画概要 ~Outline~]

高等教育機関で活躍されているさまざまな実務家教員にインタビューを敢行。インタビューを通して、実務家教員の仕事内容をひもといていきます。
 

第7回では、2016年に岐阜大学で実務家教員に就任され、2019年より名古屋産業大学で教鞭を執られている、今永典秀(いまながのりひで)准教授を取材。業務についてはもちろん、実務家教員を目指したきっかけややりがいをお話しいただきました。(教育人財開発機構 編集部)

〈実務家教員になるまで ~Before~〉

Q:これまでのご経歴と実務家教員に興味を持ったきっかけを教えてください。
新卒で住友信託銀行(現:三井住友信託銀行)に入行し、法人営業を経験した後、名古屋へUターン転職しました。銀行員時代の多忙な日々とは一転し、転職先の東和不動産ではプライベートとも両立できるようになりました。当時の私は30歳になったばかりで自分の成長にも貪欲だったため、「プライベートでは何をしようか」と思案しました。その結果、かねてから興味のあった大学生向けのキャリア支援活動を始めてみることにしました。「NAGOYA×FOREVER」という市民団体を立ち上げ、学生や社会人と一緒に地域課題の解決に向けたアイデアを考え、実行に移していったのです。この活動には、後に実務家教員として働かせていただく岐阜大学の学生も参加してくれていましたね。社会人と学生が組織に縛られず、さまざまな関係者がざっくばらんに意見を交わし、ひとつのプロジェクトを運営することはとても楽しい経験でした。そして、活動の中で将来について語り合ったり、ボランティア活動に参加したりするうちに、社会や地域に貢献することへの興味関心が次第に強くなっていきました。

その一方で、私はMBA(経営学修士)取得を目指し、大学院へ通い始めました。仕事や支援活動と両立させるのは大変でしたが、スケジュール管理力を養えたと思います。大学院では起業やCFO(最高財務責任者)へのキャリアアップを念頭に勉強していましたね。この頃から「教育」というキーワードがぼんやり頭に浮かぶようになりました。

実務家教員に興味を持ったのは、これらの「社会貢献」や「教育」を仕事に変換できると思ったからです。友人から「大学が地方創生推進事業に力を入れている」という話を聞いたことがきっかけになりました。ちょうどそのとき、幸運にも岐阜大学が産学連携教育に興味のある民間出身者を募集しており、「これだ!」と直感し、すぐに応募しました。


Q:採用において評価されたと思う経験は何ですか?
「NAGOYA×FOREVER」での活動ですね。そう思うようになったのは、知り合いの大学教授から提出書類の書き方についてアドバイスをいただいたときです。その先生は「提出書類には、市民活動やボランティアの内容を詳細に書いた方が効果的」と教えてくれました。アドバイスに従い、書類には日付や活動時間、工夫点など活動の細部に至るまで詳細に記入しました。すると、面接でも詳しく尋ねられ、「先生のアドバイス通り、『NAGOYA×FOREVER』の活動は評価していただけたのだろうな」と感じました。また、岐阜大学は産学連携に力を入れているので、「NAGOYA×FOREVER」の活動を通して得た〈コミュニケーション能力〉や〈調整力〉で、「『教育』と『社会』を結びつけることができる」という自信もつきましたし、大学入職前から学生とつながりがあったので、学生たちのニーズを知ることができたのも大きかったですね。大学と学生、双方の状況を理解した自分だからこそ展開できる授業プランを、面接でプレゼンすることができました。恐らくこの点も、評価していただけたのだと思います。
 
「NAGOYA×FOREVER」の活動の様子

経験ではありませんが、私の「教育への情熱や大学への思い」も採用へつながったのではないかなと考えています。実務家教員を目指す皆さんはすでにご承知のことと存じますが、どれだけ優秀な実績を持っていても、マインドの部分が欠けていると採用してはいただけません。実務家教員になりたいのなら、経験や実績だけでなく、情熱や志も必要だということを忘れないでいただけたらと思います。

〈実務家教員になってから ~After~〉

Q:実務家教員としての活動内容と、新学科開設について教えてください。
まず、岐阜大学での活動内容についてお話しします。私は2016年1月から2019年3月まで、岐阜大学が運営する地域協学センターで特任助教として勤務していました。任期中には、地域の中でリーダーシップを発揮し活躍できる人材の育成を目指し、「次世代地域リーダー育成プログラム」を立ち上げました。具体的には、インターンシップやフィールドワークなどの体験型の学びを通して、学生たちの成長をサポートしました。そのため、「学生に直接教える」というよりも「外部と円滑に連携するコーディネート」としての仕事の割合が大きかったですね。インターンシップ科目のバリエーションを増やすなど、大学側の意向も汲みながら、いろいろと新しいことにチャレンジさせてもらいました。その結果、当初20人程度しかいなかったインターンシップ参加者は、最終的に年間延べ300人まで増えました。やれることはやったという達成感を感じ、3年間の任期を終えました。

その後ご縁があって、2019年4月から名古屋産業大学で教鞭を執ることになりました。入職の決め手となったのは、「職業教育を通して社会で活躍できる人材の育成」という名古屋産業大学の建学の精神です。大学がその精神に基づいて、3カ月間の企業インターンシップを単位化して授業科目に取り入れていることにも魅力を感じました。この科目なら「座学と体験を連動させた体系的な教育プログラムを実現したい」という私の思いを叶えられるのではないかと思ったのです。そうした私の経験や思いは、学部長をはじめとした先輩の先生方に共感していただき、専門職大学の仕組みを活用した新学科開設に向けた企画立案のメンバーの一人として、大変あたたかく迎え入れてもらえました。

入職後は新学科開設の業務を進めながら、現代ビジネス学部における地域ビジネス論やインターンシップなどの実践的講義や、併設校である名古屋経営短期大学未来キャリア学科で観光ビジネス論のゼミナールなどを担当しています。今まで培ってきた社会とのつながりや、外部とのコーディネート力を活かし、学生が楽しんで参加できるような授業を目指しています。例えば、産業界の人を外部講師として授業に呼んだり、近隣のイベントのお手伝いを学生の卒論のテーマに絡めたりしていますね。また、私が出演したラジオ番組を聞いてもらい、感想を書いてもらったこともあります。このような趣向を凝らした授業は学生も興味をもってくれますし、学生とのコミュニケーションのきっかけになります。実務家教員ならでは、自分ならではの経験を活かした授業を展開することを心掛けています。

2021年4月からは「経営専門職学科」が晴れてスタートしましたが、その教育カリキュラムの作成には大きく関わらせていただきました。学部の新設や「専門職大学」という新たな仕組みについては、はじめは右も左もわからず苦労したものですが、岐阜大学時代にさまざまな先生と一緒に講義をつくった経験が活きています。とはいえ、今回は頭を悩ませることも多く、大変な道のりでしたが、その分、本当に勉強になりました。座学の学びと実践経験を往還し、学生時代に社会人として必要なスキルや技能・マインドを身に付けられる最高のプログラムをつくることができたと自負しています。多くの学生の学びにつながってほしいですね。
 
講義の様子


Q:実務家教員として、どのようなことを意識して働いていますか?
「単なる大学と社会の架け橋にならないこと」を意識しています。大学と社会の関係が現在だけでなく未来につながるよう、架けた橋に付加価値をつけるようにしています。例えば、産学連携プロジェクトをコーディネートするときは、参加企業と学生の双方がWIN-WINな関係になることを重視しています。また、ビジネス現場を離れるとどうしても実務経験が錆びついてしまいますが、学外の活動に積極的に関与することで補完しています。具体的には、NPO法人や企業などからプロジェクト単位で相談を受け、ソリューションを提案し、一緒に活動することを通して最新の実務を学んでいるといった感じです。このように、学内学外ともにさまざまな活動を行うことで、人脈も視野も広がっていきます。その人脈や視野、経験は翻って大学の教育や研究にも活きるので、大学と社会をただ往還して架け橋になるのではなく、未来まで続く関係値をつくる実務家教員を目指しています


Q:実務家教員の醍醐味は何ですか?
「仕事を通して感動できること」ですね。学生たちから「難しいプロジェクトを一生懸命やりきって企業に喜んでもらえた」「コンテストに挑戦して入賞した」という報告を受けたとき、企業人では得られないようななんとも言えない感動を覚え、やりがいを感じます。社会と触れ成長していく学生たちは、とても輝いていて眩しいです。このように、人が何かにトライして変わっていく姿を間近で見守ることができるのは、この職業の魅力なのではないでしょうか。学生たちが成長する姿を見るたび、私も充実感に包まれ、心から「本当に良い仕事に就けた」と思います。

〈これから実務家教員を目指す皆さんへ ~Message~〉

Q:実務家教員に向いている人はどのような人ですか?
大学は企業と違い、自由な部分が多いです。そのため、自由だからこそ、「主体的に目標に向かって行動する力」がより一層必要になります。これまでの経験でそのような力を養うことができている人は、実務家教員に向いていると思います。私の場合、銀行などの社会人時代の実績自体は選考ではあまり評価されなかったのかなと感じていますが、実績を作るために「努力する」というプロセスは、今間違いなく活きています。社会人時代に身に付けた「主体的に行動を起こす力」が、大学独特の自由な雰囲気に流されずに自分を律し、目標に向かって努力し、成果を上げる支えになっているのです。この行動力は、実務家教員に関わらず、大学教員になる人は誰しも持っていたほうが良いと思います。

「郷に入れば郷にしたがえ」の精神を持って働ける人も向いていると言えるでしょう。というのも、キャリアアップにつながる評価基準は、企業と大学では異なるからです。一般企業の社員と同じようにキャリアアップしたいのであれば、実務家教員には「研究発表や論文作成」が必須になります。売上を上げ、社内での評価によってキャリアアップする企業とは違うのです。最初はその違いに戸惑うかもしれませんが、「企業とは違うんだ」と思考を切り替え、大学の評価基準を理解し、それに従って対応することをおすすめします。


Q:最後に、実務家教員を目指す皆さんへメッセージをお願いいたします。
実務家教員の強みは、「社会人経験がある」ということです。私たちはただ単に教科書の内容を伝えるのではなく、自分が得意な教育方法を身に付けて実践することで、学生たちに「実体験を肉付けしたオリジナルでわかりやすい内容」を伝えることができます。その結果として、学生との距離が近くなり、学生から気兼ねなく質問や相談をしてくれる友好的な関係を築くことも可能です。実務家教員ならではのそうした特権を楽しみながら、ぜひ学生と一緒にいろいろな挑戦をしてみませんか。


※2020年12月に取材した内容を掲載しています。