〈注目の実務家教員インタビュー〉【第3回】桃山学院大学・藤田勝利特任教授『教育現場に立つことで、自身のキャリアが社会資産に』
教育人財開発機構 編集部 2021.01.29
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- 【プロフィール】
1996年上智大学経済学部卒業。住友商事株式会社、アクセンチュア株式会社を経て、2004年アメリカのクレアモント大学院大学P.Fドラッカー経営大学院で経営学修士号取得。2004年帰国後、「組織風土改革」のスペシャリストとして2社の組織変革プロジェクトに従事。2005年から6年間、IT系ベンチャー企業の役員としてマーケティング責任者および事業開発責任者を歴任。2010年に経営コンサルタントとして独立。次世代経営リーダー育成およびイノベーション・新事業創造に関する分野を中心に、独自の知識体系とメソッドを活用した「経営教育」事業を展開。2015~2019年まで立教大学経営学部講師を務めた後、現在、桃山学院大学経営学部ビジネスデザイン学科 特任教授、Venture Café Tokyo 戦略ディレクター、PROJECT INITIATIVE株式会社 代表取締役として活動中。また、桃山学院大学では、1・2年生のPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング=課題解決型学習)入門編と応用編の責任者を務めている。
[企画概要 ~Outline~]
高等教育機関で活躍されているさまざまな実務家教員にインタビューを敢行。インタビューを通して、実務家教員の仕事内容をひもといていきます。第3回では、2019年4月より桃山学院大学で実務家教員に就任された藤田勝利(ふじたかつとし)特任教授を取材。業務についてはもちろん、実務家教員を目指したきっかけややりがいをお話しいただきました。(教育人財開発機構 編集部)
〈実務家教員になるまで ~Before~〉
Q:これまでのご経歴や実務家教員になるまでの経緯を教えてください。新卒で住友商事に入社後、3年目でアンダーセン・コンサルティング(現:アクセンチュア)に転職し、会社の中の組織や人材の変革など、いわゆるチェンジマネジメントを担当していました。その後、アクセンチュア時代の先輩が立ち上げたスタートアップ企業に誘われ、参画を決意します。入社当初、社員が7名しかおらず大変でしたが、会社をつくりあげていくプロセスを肌で感じられたのは貴重な経験だったと感じています。在籍中に、アメリカのクレアモント大学院大学P.Fドラッカー経営大学院へ留学し、マネジメント理論全般を学び、MBA(経営学修士号)を取得しました。2010年には経営コンサルタントとして独立し、コンサルティングはもちろん、経営リーダーを育成するプログラムの設計など、経営教育事業に軸足を置いて活動を始めました。また、仕事の合間を縫って書籍も執筆していました。
実務家教員として大学教育の現場に入ったのは2015年です。リーダーシップ教育で有名な立教大学から声を掛けていただいたことがきっかけで、2019年まで経営学部で週1回講師を務めました。そして、新たなご縁があり、現在も実務を続けながら、桃山学院大学経営学部ビジネスデザイン学科で教鞭を執っています。
Q:桃山学院大学への応募の経緯や選考についてお聞かせください。
講師を務めていた立教大学の卒業生の方が引き合わせてくれました。その方はリーダーシップ教育を広める事業を運営しており、桃山学院大学の学長と副学長を紹介してくれたのです。当時、桃山学院大学はビジネスデザイン学科新設に向け、リーダーシップ教育のプロを探していたそうで、私を推薦いただきました。ぜひお引き受けしたいと思い、選考に進みました。選考は、やはりビジネスデザインやリーダーシップ教育を主眼に立ち上げた新学科の目的に合致した使命感、知識、実務経験があるかを第一にみられたのではないかと感じています。また、模擬授業など大学ならではの選考もありました。
選考時に意識した点や工夫した点について、簡単にお話しします。まず、提出書類には、米国で経営学を学びMBAを取得したこと、大学院での専攻がリーダーシップ論と経営戦略論だったこと、経営コンサルティングの経験や経営リーダー育成プログラムの設計経験、そして著書について簡潔にまとめました。次に、面接に関しては、特別な対策は行っていませんが、自分が常日頃考えていることを整理して説明できるように準備しました。実際の面接では「経営戦略に関する自分のオールラウンド性」をアピールしました。経営学についてリーダー向けの教育ができること、バリエーション豊かな教材(チームマネジメントやリーダーシップ論などのソフトスキルからエグゼクティブ向けの経営戦略思考といったハードスキルの講座まで)をたくさんつくってきたこと、また、基本的な内容であれば会計も教えられることなどを伝えました。そのほか、選考フローではありませんが、選考途中で大学から担当予定の授業概要を教えていただき、実際にその内容で授業ができるかどうか、質問を受けたことも覚えています。
私は昔から経営学と教育学に興味があり、この2つを掛け算したアウトプットを常に意識してきました。だからこそ今、大学で経営学の教育に携わることは必然だったのではないかと感じています。日本の大企業、米国のコンサルティング会社、そしてスタートアップ企業といったそれぞれまったく異なる組織で仕事をした経験、経営コンサルタントとして様々な企業に関わってきた経験、そして企業に対する「経営リーダー育成」の教育経験。積み重ねてきたこれらの実績により、独自の教育手法を模索しながら築いてきたことが、今の実務家教員という仕事につながっていると思います。
〈実務家教員になってから ~After~〉
Q:現在の業務内容と桃山学院大学ビジネスデザイン学科について教えてください。ビジネスデザイン学科の特任教授として、経営戦略、ビジネスリーダーシップ、問題解決法といった授業を教えています。また、実践に近い学習方法を採用した「PBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング=課題解決型学習)」という授業を受け持ち、授業設計の責任者も務めています。PBLは、従来の講義型授業とは異なり、学生自身が課題を見つけ、その課題を解決するまでの過程でさまざまな知識を得ていく学習方法で、いわゆるアクティブラーニングです。本学では、グループで議論やプレゼンを重ねながら、社会的な課題の解決策を考えるスタイルを採用しています。本学のPBLの魅力は、企業が実際に抱える課題に対して、クライアント企業の社員と教員のサポートを受けながら、学生が主体となって解決策を考え取り組めることだと思います。最近、PBLを取り入れる大学が増えてきましたが、「通常の授業がメインで、PBLはオプション」というところが多いです。それに対し、本学のビジネスデザイン学科は、PBLを通してリーダーシップを学ぶ学科なので、PBLがメインで、理論科目、スキル科目、教養科目などその他の科目が周りを取り囲んでいるイメージです。つまり、発想が逆なのです。PBLをメインに置くことで得られるメリットは、さまざまな授業で学んだ知識をPBLという実践を通して統合できることです。一般的な講義中心の経営学部では、先生方が各々の研究分野を教える「縦割り授業」になりやすいですが、PBL中心の本学では、「A先生の授業内容やB先生の○回目の授業で学んだ方法論をPBLのプロジェクトで活用する」といった授業間の連携が可能になります。PBLをいわばハブにして教員間でも横断的な協力がしやすく、学生もビジネス全体の視座で学べることが大きな特徴です。
企業のリーダー層への講義より
Q:実務家教員として苦労している点や難しいと感じている点はありますか?
苦労しているのは「時間配分」です。現在、1・2年生のPBL入門編と応用編の責任者をしていますが、クライアントと連携しながら行う授業準備に加え、責任者としての仕事も果たすことは想像以上にハードだと感じています。また、学生の課題チェック、相談・質問対応や入試担当などもイレギュラーで発生するので、時間のやりくりが大変です。実務家教員にもいろいろなタイプがいますが、私のように実務と並行して教鞭を執る人は、実務側を自分で柔軟に動かせないと難しいかもしれません。
難しいと感じるのは「学生の主体性を引き出すこと」ですね。普段学生と接していると、しばしば学生は受け身になりがちだなと思います。自ら目的と意欲を持てば学習と気づきのチャンスが何倍にも広がります。なので、何をおいてもやはり学生には主体的に行動してほしいと考えています。そのため、私は早稲田大学の日向野幹也(ひがのみきなり)教授のお言葉を参考に、授業構成を工夫しています。日向野教授は著書『高校生からのリーダーシップ入門』(ちくまプリマー新書)で、「不満を苦情として伝えるのは消費者。不満を提案に変えて持っていくのがリーダーシップ」と述べています。このお言葉を借り、私は学生の意識を「消費者マインド」ではなく「リーダー(提案者)マインド」にし、リーダーシップを発揮させ、自ら学びたいと思うパワーを引き出すことに全力を注いでいます。具体的には、学生のクラスファシリテーター(会議等の進行役のこと)を授業ごとに決め、質疑応答などをとりまとめてもらい、「自分たちが授業をつくっているんだ」と認識してもらえるようにしています。
Q:実務家教員の醍醐味は何でしょうか?
世の中で何が起きているのか、生きた情報を学生に伝えられることです。例えば、スタートアップ企業とのミーティングで海外の人から得た情報を、すぐ学生に教えることができます。それは実務家教員の強みかもしれませんね。また、普段接している企業のリーダーや起業家を授業のゲストスピーカーに招くこともできます。この取り組みは、企業のリーダーを学生に紹介できるだけではなく、リーダー側も学生との議論で多くの新鮮な気づきを得ることができるので、お互いにとってメリットになると考えています。
〈これから実務家教員を目指す皆さんへ ~Message~〉
Q:実務家教員に向いているのはどのような人でしょうか?仕事で実績を収められているということ以外に、大きく3つあると思います。
1つ目は「教育や育成に興味がある人」です。言うまでもなく、教員ですから教えることが多い仕事です。人に教えたり、人を育てたりすることが好きという方は向いていると思います。「教える」と「育てる」は似ているようで少し違う気がします。教えるだけではなく、人が育ち、成長するということに興味がある人が向いていると思います。
2つ目は「概念化能力が高い人」です。いくら実務経験があっても、経験や知識をそのまま提示するだけでは学生は理解できません。学生に伝わるよう、経験や知識をまとめ、概念化することが必要です。したがって、情報を図示化・整理することに長けている人は実務家教員に向いていると思います。
3つ目は「教えすぎない人」です。1つ目と矛盾しているように感じるかもしれませんが、教育に興味がある人の中で、稀に「教えすぎてしまう人」がいます。英語の「educate(教える)」は、ラテン語で「能力を引き出す」という意味であるように、教員に必要なのは「学生から能力を引き出す力」です。何でも教えすぎてしまっては、学生から引き出すことはできません。むしろ、成長の機会を奪ってしまいます。教えすぎないように教える。難しいことですが、非常に重要だと思います。
Q:最後に、実務家教員を目指す皆さんへメッセージをお願いいたします。
日々の授業で学生からさまざまな質問が出てきますが、その中に時折、本質的な質問が混ざっていることがあります。私はその質問に答えるために、ビジネスの現場に戻って実践してみて、その結果を教材にまた反映させるということがよくあります。このように、ビジネスの現場と教育現場を行き来する実務家教員は、「仕事の現場で生まれる知」と「教育機関で生み出された知」をつなぐ役割を担っているのではないかと感じています。それはつまり、自身が仕事で得た知識や知恵が教育現場を通すことで未来の社会をつくる資産になり得るということです。決して大げさな表現ではなく、実務家教員はとても社会的意義が大きい仕事だと思います。また、そのためにも、実務家教員の実践的な知と、大学で研究を積まれてきた先生方の専門的で深い知を融合することが極めて重要だとも感じています。
特に、経営学の分野は実務家教員のニーズも非常に高いと思うので、興味がある方はぜひチャレンジしていただきたいです。従来の経営学は、財務・マーケティング・人事・組織行動学など細分化されやすかったため、勉強熱心な学生ほど視野が狭くなりがちでした。それぞれの専門分野の知識は確立されていますが、「マーケティングと人事を組み合わせたらどうなるか」といった、分野横断的な連携と教育はまだまだ進んでいません。経営の現場で経験を積んだ実務家教員が、ビジネスの現場で日々生まれている新しい情報と知識を活用して、ぜひ学生に広い視野でビジネスや経営の面白さを伝えていっていただきたいです。
※2020年11月に取材した内容を掲載しています。